部活動の地域移行、現場からの報告【定期更新】

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陸上クラブ「ワンステップジェネレーションズ」の実践と、制度設計への提言

この記事は、部活動改革を推進するスポーツ庁・自治体の担当者、そして同じ志を持つ地域の指導者へ向けて発信するものです。随時加筆・更新していきます。

「部活動の地域移行に関する現場の声が聞きたい」などのご要望がある場合は、以下までお問い合わせください。
問い合わせ先:イッポラボ合同会社 代表社員 田中 大一
連絡先:info@ippolab.co.jp


はじめに

部活動の地域移行が、日本全国で少しずつ動き始めています。スポーツ庁と文化庁は2023〜2025年度を「改革推進期間」と位置づけ、2026年度からは「改革実行期間」として本格的な移行フェーズへと踏み込もうとしています。笹川スポーツ財団の全自治体調査(2024年)によると、運動部活動の地域移行に取り組んでいる市区町村はすでに33.0%に達しており、着実な広がりを見せています。

しかし、全国の現場では「制度の理想」と「実際の運営」の間に大きなギャップが存在しています。

イッポラボ合同会社は、鳥取県で陸上クラブ「ワンステップジェネレーションズ」を運営しています。部活動の受け皿として地域クラブが果たせる役割を模索しながら、中学生の指導を続けてきました。この記事は、その実践のなかで気づいたことを率直に記録し、部活動改革を推進するスポーツ庁・自治体の担当者、そして同じ志を持つ地域の指導者へ向けて発信するものです。随時加筆・更新していきます。

*ワンステップジェネレーションズについてはこちら


私たちのクラブに集まる中学生——3つのパターン

ワンステップジェネレーションズに所属する中学生には、現在大きく3つのパターンがあります。この多様性こそが、地域クラブの可能性と課題の両面を象徴しています。

パターン1:小学生から継続して所属するケース
小学生のときからクラブに参加し、中学生になっても部活動には入らずワンステップジェネレーションズで陸上を続ける子どもたちです。これは部活動の地域移行が目指す姿に最も近いかたちと言えます。

パターン2:部活動と地域クラブを兼ねる二足の草鞋ケース
小学生からクラブに参加し、中学生になったら学校の部活動にも籍を置きます(この場合は陸上とは限らない)。中体連主催の大会は学校名で部活動の競技に出場し、中体連の主催でない陸上大会がある場合には、ワンステップジェネレーションズの選手として出場するケースです。どちらのスポーツも経験しながら成長している子どもたちです。

パターン3:部活動の活動量低下を機に移籍するケース
もともと中学校の部活動に所属していたものの、顧問不在や活動時間の縮小により練習環境が十分でなくなり、地域クラブを探した結果、加入するパターンです。大会はもともとの中学校から出場しつつ、日々の練習はクラブで行うという形が多くなっています。

これらのパターンが混在すること自体、地域移行の過渡期ならではの現実です。制度的な整理がされないまま、現場の子どもたちと指導者が試行錯誤しながら前に進んでいます。


現場で気づいたこと——4つの論点

1. 「部活動=無料」という前提を地域移行に持ち込んではならない

学校の部活動が「無料」に見えてきたのは、教員が時間外労働として指導を担ってきたからです。その構造が教員の長時間労働を生み出し、今日の改革の発端となりました。にもかかわらず、地域移行後も「費用は今まで通り安く抑えるべき」という期待が保護者や行政から寄せられることがあります。

地域クラブが安定的に運営されるためには、指導者への適正な対価が不可欠です。謝金・交通費の支払いにとどまらず、指導だけで生活が成立するレベルの収入設計ができなければ、優秀な指導者は集まりません。

スポンサー収入が得られるケースもありますが、それだけでは限界があります。仮に年間500万円の協賛を得たとしても、人件費として換算すると指導者1〜2名程度の雇用が上限となります。指導できる子どもの人数は自ずと限られ、規模の拡大は難しくなります。月謝収入を組み合わせた複合的な財源設計こそが、持続可能な運営の前提条件です。

地域移行を「コスト削減」の手段として捉えるのではなく、「スポーツ指導のプロが対価を得て働ける環境をつくる」という発想への転換が、制度設計の側に求められています。


2. 地域クラブの指導者には「教育者」としての役割も求められる

学校教育の一環として行われてきた部活動では、競技指導と並行して礼儀・マナー・集団行動といった「人間形成」の側面も教員が担ってきました。地域クラブに移行した途端、その機能が宙に浮くケースが出ています。

「スポーツの技術だけを教えればよい」という割り切り方も一つの考え方ではあります。しかし、部活動の地域移行という文脈で立ち上がったクラブである以上、学校教育が果たしてきた教育的機能を丸ごと切り捨てることには違和感があります。

私たちワンステップジェネレーションズでは、陸上競技の指導を通じて、挨拶・時間管理・仲間への敬意といった基本的な姿勢も指導の一部として位置づけています。子どもたちが育つ場として機能するためには、スポーツの技術指導だけでなく、人としての成長を支える視点が地域クラブにも求められるのではないでしょうか。

行政や学校との連携において、この「教育的指導の担い手をどこに置くか」という議論を、より明示的に行うことが必要だと感じています。


3. 月謝・参加費が発生することは、必ずしも問題ではない——ただし、工夫と構造的支援は必要

地域クラブに移行すれば月謝や参加費が発生します。これにより「すべての子どもが参加できる場ではなくなる」という批判的な声があることは承知しています。

しかし、現実に目を向けると、スポーツも文化活動も「やりたい子がやる」という側面は今も変わりません。費用負担が生じること自体を問題視するよりも、経済的に厳しい家庭の子どもたちへの支援制度(補助金・奨学制度・自治体助成など)を整備することの方が、本質的な議論ではないでしょうか。

クラブ側でできる工夫には、取り組んでいく必要があります。 ワンステップジェネレーションズでは、入会金を設けていません。また、練習用シャツはクラブから無料配布しています。月謝以外の初期費用や出費の積み重ねが、参加をためらわせる一因になり得るからです。「月謝は払えるが、入るたびに何かお金がかかる」という状況を少しでも減らすことが、間口を広げることにつながると考えています。

もう一つ、見落とされがちな課題が「アクセス」の問題です。地域に陸上クラブがあっても、多くの場合は陸上競技場を拠点としています。競技場は市の中心部に位置することが多く、郊外や農村地域に住む子どもたちにとっては、送迎が必要になったり、電車やバスの交通費が別途かかったりします。「月謝は払えても、通う手段がない・費用がかかる」という現実は、参加の壁として静かに存在しています。

この問題に対する一つのアプローチとして、オンラインの活用が考えられます。練習のすべてをオンラインで代替することはできませんが、フォーム確認・レース映像の分析・トレーニング理論の勉強会といった要素は、画面越しでも十分に提供できます。対面の練習と組み合わせることで、遠方の子どもたちが毎回現地に来なくてもクラブとつながり続けられる仕組みが生まれる可能性があります。「通える範囲にしか届かないクラブ」から「地域全体をカバーできるクラブ」へ——オンライン活用はその鍵の一つになるかもしれません。

部活動の時間がなくなった子どもたちが、その時間をどう使うかは多様であってよいと思います。「部活動がなくなる=子どもが路頭に迷う」という短絡的な議論から一歩進んで、多様な放課後のあり方を地域全体で設計する視点が求められています。


4. 地方における受け皿づくりの困難さは、都市部の想像をはるかに超える

地域移行の議論は、どうしても人口の多い都市部を前提とした設計になりがちです。しかし実態は、地域によって大きく異なります。

例えば、体育系の大学・学部がある地域では、スポーツの指導者として人材活用の選択肢があります。しかし、体育大学や体育学部のない地方では、指導者候補はほぼ存在しません。「地域の大人が見る」以外の選択肢が限られているのが現実です。

平日の夕方に継続して動ける社会人は、地方ではごくわずかです。フルタイムで働く保護者世代が、週に複数回の指導を担うことはほぼ不可能に近い。せめて週末だけでも——というのが、多くの地方クラブの実情です。

ただし、「地方には優秀な人材がいない」というのは正確ではありません。問題は「いない」のではなく、「その人材を活かす仕組みがない」ことです。

ワンステップジェネレーションズのコーチ陣を例に挙げると、東京五輪出場経験を持つオリンピアン、小学生・中学生時代に全国優勝を果たし現在も現役で競技を続ける選手、走り幅跳びで全国3位の選手、800mで全国3位の選手が指導にあたっています。これほどの実績を持つ人材が、地域に確かに存在しています。

イッポラボ合同会社は民間企業であるため、こうした優秀な選手・元選手を雇用し、指導者として継続的に活動してもらうことができています。しかし、民間の経営体力に頼るだけでは、こうした仕組みはごく一部の地域にしか生まれません。

ここに、行政が果たせる役割があると考えます。地域に眠るトップアスリートや競技経験者を行政が直接雇用し、複数の学校や地域クラブを巡回して指導にあたる「地域スポーツ指導員」のような公的ポジションを創設することが、一つの有効な手立てではないでしょうか。教員でもなく、ボランティアでもなく、スポーツ指導を本業として地域を支える専門職です。そうした新たなキャリアパスを社会的に確立することが、地域移行を長期的に支える基盤になると確信しています。

笹川スポーツ財団の全自治体調査(2024年)でも、自治体が直面する最大の課題として「指導者確保」が挙げられており、スポーツ庁への要望としては「財源確保・支援」が最も多くを占めています。人材は地域にいる。あとは、その人材が「指導で食べていける」環境をつくる制度設計の問題です。


スポーツ庁・自治体の担当者へ

私たちが現場で感じている課題を整理すると、次の3点に集約されます。

① 指導者の「生活できる報酬」の設計支援
補助金・委託費の単価を、指導者の実態に即した水準に引き上げることが急務です。

② 地域に眠る人材を活かす「公的指導員」ポジションの創設
体育系大学が近くにない地域でも、トップアスリートや全国レベルの競技経験者が地域に存在することは少なくありません。彼らを行政が雇用し、複数のクラブや学校を巡回する専門職として位置づけることで、民間の経営体力に左右されない安定した指導体制が構築できます。

③ 経済的格差への対応策の明確化
月謝が発生することへの批判だけでなく、低所得世帯への支援制度を地域移行の枠組みとセットで設計することが、制度の公平性を担保します。


おわりに

部活動の地域移行は、「やめること」ではなく「つくり直すこと」です。

ワンステップジェネレーションズは、まだ小さなクラブです。財源も人員も潤沢ではありません。それでも、子どもたちが陸上競技を通じて成長できる場をつくり続けることが、地域移行の理想に一歩でも近づくことだと信じて活動しています。

この記事は、現場からの問いかけです。制度設計の側と、現場の実践者が率直に対話できる機会が増えることを願っています。


本記事はイッポラボ合同会社が運営する陸上クラブ「ワンステップジェネレーションズ」の活動をもとに執筆しています。随時更新します。

引用・参照データ出典:笹川スポーツ財団「スポーツ振興に関する全自治体調査2024」、スポーツ庁「部活動改革の現状と展望(有識者会議・中間とりまとめ2024年12月)」、日本中学校体育連盟「令和5年度加盟生徒数調査」